こんにちは、Grinoマサノです!
今回は3月4日に配信した『Grino Sustainable Radio』のトークを書きおこしました。
細井が気になって紹介したくてしょうがなくなったテーマについてひとりで語る「細井のひとり語り」
今回ご紹介するのは「発酵マイスターであり麹の仲間たち運営者でもある長谷川直輝さん」とのお話。
プラントベースフードを創る中で、環境とヒトのベネフィットの交差点はなんなのか?を考えるようになってきました。
そして、腸内環境こそがその交差点になり得ると感じています。
環境負荷の低いプラントベースは食物繊維を豊富に含みますし、腸内の善玉菌は食物繊維を欲している。 という三方良しな状況になっているわけです。
そんな中、フェスでたまたまお会いした長谷川さんが発酵に詳しいということだったので発酵や腸について質問攻めにしたところ、 何を聞いても新鮮で刺激的な発酵に関する答えが返ってくるものだから、小一時間話し込ませてもらってしまったのです。
そして、私の中に留めておくだけではあまりにも勿体無いと考えるようになり、Podcastにお呼びして公開させていただくことにしました。
麹の仲間たち:https://koji-is-friends.com/koji-is-friends-profile/
参考記事はこちら:
管理栄養士が解説【プラントベースな食事が腸に優しい理由】悪玉菌が増える意外な習慣とは?
【海外記事紹介】植物性食品は腸内環境の改善につながるか?
腸と地球にやさしい腸活弁当「Grino Bento」
▼ポッドキャストはこちら
ユウ:こんにちは。今回も細井が気になってしょうがないテーマについてご紹介する細井ひとり語りです。前回の長谷川直輝さんに聞いたお話の後半をご紹介します。後半も長谷川さんの魅力満載の発酵について深く深くお話をお聞きするのでお楽しみに。それではどうぞ。
ユウ:食事の話があがったので続けてお聞きしたいです。発酵食品、先ほどの長谷川さんの話を聞く限りだと興味の発端はシンプルに味だったと思うんですけど、僕の中で発酵食品って健康と結びつくイメージがあって、その観点からもちょっとお話を伺いしたくて。発酵食品というもの、もちろん食品ってつかなくても発酵というものが持つ人に対してのポジティブな影響っていうのは何があるかお伺いしたいです。ご存知の範囲でお聞かせいただけますか?
長谷川直輝さん:発酵食品で3つ言われていることが大きくあります。ひとつは保存性が高まるということですね。冷蔵庫が無い時代に、先ほど言った味噌とか醤油とかみりんとかお酒は常温で置いておいても問題ないんですね。長期間食べられる、保存がきくことがメリットとして言われています。あとは栄養価が高まるということですね。例えば、大豆を蒸して塩とまぶしてそこらへんにぽいっと置いておくんじゃなくて、そこに麹を加えて発酵期間を得ると栄養価が高まっている。大豆を蒸してそのまま食べるよりも味噌にした方が分解されて細かい状態になっているので、消化吸収率もあがるっていうメリットがあります。単純に大豆を蒸して食べるっていうそのままじゃなくて、発酵させることによって栄養価を高める形ですね。みっつめが結果的に美味しくなるということですね。発酵食品も相当な長い歴史を持っているので、味噌とか醤油の塩分濃度とかいろいろあるんですけれど、昔の人が積み上げていってこうしたら美味しいパーセントになるんじゃないかなぁみたいな。そういう文脈の中で更新更新されてきた結果、今の発酵食品があると思うので。クオリティとしても長い歴史を辿った分、実は当たり前のように味噌とか使いつつも、かなり質が高くて3種類しか材料を使っていないのに味が最高に美味しいものになっているということなんじゃないかなぁと思いますね。
ユウ:なるほど。美味しくなるって言っていたのは旨味とかなんですか?味噌の味ってどういうふうに表現できるんですか?
長谷川直輝さん:味噌って一般的な作り方を話しますと、煮たりとか蒸したりした大豆に塩を混ぜます。そこに麹をよく混ぜてそれで発酵の仕込み完了なんですけど、そのあとどうなっていくかというと、米麹の中に含まれている酵素が大豆のたんぱく質を分解してアミノ酸にしてくれるんですね。なので、消化吸収率も上がりつつアミノ酸の旨味が味噌には入っているんですね。米麹はお米なので米麹の酵素によってお米のデンプンが分解されて、甘味になるんですね。そうすると、甘いものを食べ始める発酵菌がいて、乳酸菌や酵母菌が働き始めて味と香りが作られていくっていうのが味噌の発酵の仕組みです。
ユウ:ものすごく深いですね。こんなことを研究してやったわけじゃないですもんね、昔の人は。結果的にこの状況ができていたということですもんね。それは奇跡的ですよね。
長谷川直輝さん:経験則っていうものを頼りにする考え方っていうのはすごくあったんじゃないかと思うんですよね。
ユウ:たしかに。
長谷川直輝さん:こうしたらこういうものができた、だから次はこうやったらこういうものができるんじゃないかの相当な試行錯誤と繰り返し。おそらく実感値を持った繰り返しがされていたんですよね。今みたいに知識というか違う目線からじゃなくて、実地ベースの試行錯誤の積み重ねだと思うんですよね。
ユウ:ものすごく芳醇な香りになってるとか味になってるみたいなのをたまたま発見したり、いろいろ試してみてやってみて「あ、これいいね」ってなって、それを再現するみたいな。
長谷川直輝さん:そうですね。相当な観察眼だったりとか味を見逃さずにキャッチする能力が高かったんじゃないかなと思いますね。
ユウ:そこに想いを馳せて味噌を食べるとかなり味噌の楽しみ方が変わってきますね。
長谷川直輝さん:本当にそうだと思いますね。
ユウ:素人からすると、発酵と腐っているみたいなものと発酵の境界線がすごく曖昧な感じがしちゃうんですよ。発酵したものとして大豆があったり、さっきおっしゃっていたようにみりんやお醤油もそうだと思うんですけど、カビが生えたり腐ったりみたいなときとどう違うのか聞けたりしますか?何が違うのか?
長谷川直輝さん:一般的には発酵と腐敗の違いって人間にとって有用かどうか、役立つかどうかなんですよね。
ユウ:なるほど。
長谷川直輝さん:微生物は単純におそらく生命活動をしているだけなんですよ。人間がこれが美味しくなってるっていえばそれは発酵とみなしてますし、これ美味しくないよねって言ったらおそらく腐敗のジャンルに入れちゃう。その腐敗のジャンルの極みが食べるとおなかを下しちゃう。全くもって人間都合っていう。そもそも発酵っていう概念自体が人間都合。
ユウ:そうか。勝手に作り出した分類なわけですね。
長谷川直輝さん:そうですね。微生物は常に同じ活動をしているので。
ユウ:そういう意味でいうと、ブルーチーズってどうなんですかね。カビが生えているチーズ。
長谷川直輝さん:日本の麹カビとかもそうですけれど、カビが生えているわけなんで、それが結果的に人間にとって美味しいとか都合が良かったっていうだけという感じですかね。
ユウ:害があるとも捉えられなくていいっていうことですかね?
長谷川直輝さん:それは歴史とか経験的な積み重ねで証明されている部分はひとつあるんじゃないかなと思います。それで昔の人たちがおなかを壊したとか、これは万が一何かあるぞってなると歴史としてつながっていない。今に至ってるのはカビとか細菌が繁殖してもそれを食べ続けているのであれば、今の人達は今に至ってるって感じでそれが発酵と言われてるんじゃないかな。
ユウ:分かりやすいご説明ありがとうございます。人間に便益があるか害があるかで発酵か腐敗かにわけられるという理解で正しいですか?
長谷川直輝さん:大丈夫です。
ユウ:ありがとうございます。もう少しお聞きしたいんですけれど、発酵というものの日本における歴史を聞きたくて。当初はたまたまできたものだと思うんですよ。食べたら便益があったから発酵と捉えた。発酵という考え方もその通りじゃなかったと思うんですけど。どのあたりから日本において発酵食品というものが食べられ始めたのかとかどんな感じで発酵が歴史を刻んできたのかちょっとお伺いできますか?
長谷川直輝さん:発酵自体が食料保存から来ているので、昔の人はいかに食料を長期保存するかが相当な重要ごとだったので、どの地域でどういう取り組みをやっていたのかっていう起源とかルーツはまったく自分でもわからないところはあるんですけれど、ひとつ日本の発酵の軸は麹とお酒の文化だと思うんです。歴史のひとつの辿り方としてお酒と麹で見ていくとちょっと面白くて。最初に大きくお酒が出てくるのが口噛み酒(くちかみざけ)と言われている。
ユウ:口の中で作る?
長谷川直輝さん:そうですね。お米とか木の実を口の中で咀嚼して、口の中の入れたもののデンプンを口の中のアミラーゼっていう消化酵素によって糖に変えて、それを壺に吐き出していって。そうすると、空気中の酵母菌が糖を目がけて降りてきて、それが自然発酵してお酒になるっていう。
ユウ:凄いことしてましたね!それも計画的じゃないわけですもんね。たまたまぺってやってたら・・・。
長谷川直輝さん:それがどういう経緯になったかはわからないんですけど、舐めてみたら良い臭いがするなぁみたいな。誰か発見したのかもしれない。昔はお酒っていうものを口噛み酒がルーツとして派生したと言われていて、次に古事記の中のスサノオノミコトがヤマタノオロチを退治するお話があるんです。ヤマタノオロチは大きな蛇で8個の頭があると。それをスサノオノミコトがどうやって退治したかというと、8個の樽のお酒を用意してヤマタノオロチに飲ませて酔ったところを退治したっていうお話があるんですよ。おそらく奈良とかそれくらいに編纂されたもので、そこから何が考えられるかっていうと、もうその当時にお酒を作る技術があった。
ユウ:そうですよね。
長谷川直輝さん:さらに、口噛み酒だと相当ぺっぺってやらないと8個も樽を用意できないと思うので、ある程度お酒の量を量産する技術があったんじゃないかなというのがわかるんですよ。
ユウ:わぁ、面白い後学ですね。
長谷川直輝さん:お酒って難しくて、ちょっと普通の人が日本酒ってどうやって作るのって言っても分からないじゃないですか。でも、昔の人は微生物なんて知らなくても、その当時は古事記に出てくるぐらいなので、お酒がある程度作られていたのがわかる。
ユウ:712年に編纂された古事記。いま調べてみたんですけど、実際にそう書いてありますね。ご名答でした。ヤマタノオロチを倒したストーリーっていうのはもう本当にこの古事記の中に書かれている内容で壺に入った酒で酔わせたって書いてありますね。
長谷川直輝さん:そうですね。ヤマタノオロチをお酒で倒すっていうのも面白いストーリーですし、お酒っていうのが昔の人の方が身近だったり、もともと神様に捧げるものっていうお米やお酒もそうですし、神聖なものだったりとか。そういうところから日本の発酵は始まってきて、さらに播磨国風土記っていう713年頃に編纂されたものがあって、神様にお供えしたお米がカビてしまってお酒を造ったっていうお話があるんです。それは古事記から進化していて、お米がカビたということは麹ができて、麹を使って日本酒を仕込むようになっていったっていう歴史なんですね。いままでスサノオノミコトのときは麹を使った日本酒の発酵かは自分自身が調べていなくてよくわからなくて。お米に糀菌を生やして、それでお酒を仕込んだのかはわからないんですけれど、播磨国風土記を見ると日本酒を造るのに麹を使うんですね。
ユウ:なんと、1年後だから、たぶんあったわけですよね、古事記のときも、糀菌で。
長谷川直輝さん:麹菌の話のベースがいつ頃なのかちょっと分からないんですけれど、播磨国風土記が編纂された713年前には、お米がカビてしまってそのカビを利用してお酒を造ったっていうのはあるので、そこからお米と糀ってものが出てくるんですよね。さらに、それを日本酒につなげていく。それが奈良時代になってくるんですけど、本当にそれがたぶん日本の発酵のルーツ的なところ。麹が作れるようになると、いろんなものが出来てくるというところなんですね。
ユウ:なるほど。すごくめちゃくちゃ面白いですね。古事記にお酒が出てきて、その1年後に編纂されたものに糀菌でちゃんと日本酒を造っている。
長谷川直輝さん:糀菌がたぶん空気中から舞い降りてきて、お米にくっついてたまたまたぶん上手いようにカビたんですね。たまたまカビたものを仕込んだら日本酒になった。おそらくそのころは自然発生的に微生物を空気中から捉えていたっていう文脈ですね。
ユウ:糀菌って大気中を飛んでいるんですね?ふわふわって。
長谷川直輝さん:基本的には田んぼの稲に付いていると言われているんです。じめじめして日本みたいに暑い感じじゃないといないっていうことなので、かなりの条件が整って、たまたま付いたんでしょうね。それを捉えてお酒を造っていくっていう自然の力でたまたま出来たみたいな。たまたま良いところを捉えて量産するって難しいと思うんですよね。そこから今度は日本人が自然界から糀菌のみを純粋に分離して、麹菌のみを育てていくことが始まるんですね。なので、糀菌自体を扱うお店が室町時代にはもう出来上がっていたということなんですね。
ユウ:その時代に天才がいたんですね。
長谷川直輝さん:相当すごい人だと思うんですけど。麹菌を分離することができて保存しておくことができれば、空気中から自然と降りてくるっていうかなり不確実な要素がなくなるので、蒸したお米に麹菌を生やせば麹が安定して作れると。そうすれば、日本酒も安定的に造れる。それが麹のストーリー。
ユウ:なるほど。発酵の歴史は古事記のあたりで文献にも載っていると。
長谷川直輝さん:そうですね。お米とお酒は発酵のキーワードだと思いますね。
ユウ:日本に馴染み深いですしね。
長谷川直輝さん:そうですね。
ユウ:その時代からそういう扱い方してたら根付いたものになるでしょうね。ありがとうございます。歴史の一部分をお話いただいたんですが、実は一瞬で1時間ほど過ぎようとしています。最後の質問で、日本の発酵食品ってどういったものがあるかをもう少しお伺いしたいんですが、さきほどあげていただいた調味料やお酒以外にいくつかお聞かせいただけますか?
長谷川直輝さん:身近なおばあちゃんとかの世代が作っていたものだとぬか漬けとかたくあんもそうですね。
ユウ:僕が小学生ぐらいのときにぬか床がありました。
長谷川直輝さん:発酵っていうと塩漬けの文化になるので、漬物系を調べてみると非常に多いんじゃないかな。日本人にも馴染み深い酒饅頭とか。饅頭も昔はドライイーストとかベーキングパウダーとかなかったので、甘酒を作って置いておくと自然に酵母菌が降りてきて、ぶくぶくぶくとお酒のようになってきて、発酵の力を利用してお饅頭をふくらませて酒饅頭を作っていた。今でいうとお饅頭って買う意識だと思うんですけど、昔はほとんどが農家だったわけですね。農家のお昼休みやお祭りのときに、お饅頭を作って蒸して食べていたという歴史があって。それも麹を使った発酵。意外と日常で食べているものをみると意外と発酵のものがあるんじゃないかなという感じですね。
ユウ:そうですね。発酵食品だっていうこと知らずに使っているケースが意外とあるなとお話を聞いていて思いました。恥ずかしながら、みりんが発酵しているってことを知らなかったですし、結構キッチンにありますよね、発酵食品は。
長谷川直輝さん:そうだと思います。
ユウ:酒饅頭は無さそうですけど、その他は。
長谷川直輝さん:あとはかつお節やお酢も発酵になるのでけっこう調味料は面白いかな。
ユウ:なるほど。長谷川さん一押しの発酵食品をお聞かせいただいてもいいですか?これはベスト発酵食品だ、っていうものがあったりしますか?味噌になりますか、やはり。
長谷川直輝さん:いや。私の中で何がいいかっていうのが一番馴染みの深い当たり前のものっていうのが一番の答えになっちゃうんですよ。これはすごいって言っても週に1回しか使わないとかなると私の文脈から離れてしまって。
ユウ:なるほど。
長谷川直輝さん:なので、気づかなくても意外と無意識くらいで使っているっていう発酵食品になると、当たり前の味噌とか醤油とかそういうものにもっと自分自身も目を向けられないのかなっていうのと身近に感じてもらえたら遠い世界を見るんじゃなくて身近な足元でも十分楽しみを見つけられるよっていうのが麹の仲間たちの基本的な考え方なので、そういったところでは基本調味料ですね!
ユウ:ありがとうございます。最高なまとめです!最後の最後にお聞きしたかったのが、長谷川さんのzoomの背景にちっちゃいトトロがいるんですよ。「となりのトトロ」って発酵と何か関係があるんですか?
長谷川直輝さん:そういう目はまったくなかったですね(笑)。単純に自然が好きなので、日本って荒れた自然じゃなくて里山が多いじゃないですか?ジブリって人間と自然がうまく調和して描かれているので、そういった意味でジブリが好きでいい背景だなみたいな。発酵とはまったく関係ないです。
ユウ:なるほど。ありがとうございます!学びとしては日々、一般的に口に出来る基本調味料という形で発酵食品と触れることができると。敵を倒すときは日本酒を使うと。そんな感じでよろしいでしょうか(笑)。ありがとうございました!
長谷川直輝さん:ありがとうございました!